株式會社らくよう綜合研究所 猪口公認会計士事務所

コラム

2017.04.22

「みんなのクレジット」の業務停止処分に触れて


猪口です。

先月の話題になりますが、ネット経由で投資家から集めた出資金を個人・法人に貸し出す貸付型クラウドファンディング業者の株式会社みんなのクレジットに対して、証券取引等監視委員会(SEC)より平成29年3月24日に行政処分の勧告、3月30日に関東財務局より1カ月間の業務停止命令及び業務改善命令が出されました。

SECからの勧告(http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2017/2017/20170324-1.htm)の内容を図示すると以下の通りとなります。

 

0001 (2)

 

噴飯するほど問題だらけの状況ですが、基本的には資金管理の透明性の欠落が要因であり、公認会計士として非常に興味を感じる案件でもあります。

 

本件は、全体としていわゆる分別管理が実現していない点が問題であるといえます。

分別管理とは、金融商品取引業者が法令により顧客の資産を自己の資産と分別して管理することで、金融機関等が必ず遵守しなければならない最低限の管理義務です。人のお金を預かる商売なのですから当然のことなのですが、これが出来ていなかった為に処分を受ける業者があとを絶ちません…

ただ、金融商品取引法で求められている分別管理は、あくまで投資家から預かった資金等について、金融機関等の自己の資産と区別(具体的には預金口座の名義を分けたり、信託銀行に保管したり)して管理することを一義的には指しますので、本件の場合においては、形式上の分別管理は守られていたという評価になるのかもしれません。分別管理の違反であれば、そのように公示されるので。

 

他方、本件に限らずですが、匿名組合を活用した投資スキームにおいて投資先が営業者の関連当事者であったことからこれを利益相反(営業者の善管注意義務違反)で、訴訟に発展するケースは発生しておりまして、最近でもトピックになっています。

(参考:匿名組合の営業者に善管注意義務違反はないとした原審を破棄した事例 

https://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-050961451_tkc.pdf

本件についてはこれと類似した格好でして(本件の方がもっとひどいですが)、勧告において「投資者保護上問題がある」と表現されているのは、この観点に則した指摘であると思われます。

 

また、金融財政事情(2017.4.10)にて本件に関する制度上の問題点として以下が指摘されています。

 

それにしてもなぜ、集めた出資金が白石代表の懐に入ってしまうようなずさんな業務運営が見過ごされてきたのか。その理由は、貸付型クラウドファンディング業者が「貸金業」と「第二種金融商品取引業」の登録が必要なこと、つまり貸金業法と金商法の二つの法律の制約を受けていることに起因している。まず、貸金業法には「借入人保護」の考え方が根底にあるため、貸付型クラウドファンディング業者を含む貸金業者は、個別具体的な貸付先を公表できないという制約がある。(中略)東京都や財務局では、「貸付先を匿名にしないと出資者である投資家自身が貸金業者に該当し、違法貸付になってしまう」との行政指導を行っている(中略)つまり、貸付型クラウドファンディングにおいては、金商法より貸金業法の考え方を優先した事業運営がなされているわけだ。

 

本件の場合、貸付先名が明示されていれば、記事の通りで安直な不正については防止されていた可能性はあります。

一方、投資スキーム全般で求められるディスクロージャーというのは、投資家が適切な意思決定を行うために必要とされる情報が開示されることが大事なのですが、貸付型クラウドファンディングおいて、この点を充足することはなかなかハードルが高いようにも思われます。

 

この観点で制度・実務ともに先を進んでいるのは、投資信託を利用したスキームでして、ここでは日々の(または決算日での)基準価額の計算(投資信託純資産の時価評価)がルール化されています。証券会社・銀行等の窓口で販売されてるあれです。

投資先が上場株式等の流動性の高い商品で構成されている場合には、かなり精度の高い時価情報が開示されることになります。

他方、投資先が流動性に乏しい(=市場での取引価格の無い商品)債券である場合には、時価評価すること自体が困難であるケースも少なくありませんで、投資信託スキームにおいても十分な情報が投資家側に提供されない場合もあります。

私の経験の中でも、例えば、海外の不動産投資ローンを証券化したものを投資先に含んでいる投資信託を監査していた際、当該証券についての減損の要否を判定するに留まり、具体的な時価について試算して示すことは困難である(=簿価で評価する)という実務上の判断を行っていたケースがあります。ちなみにですが金融商品会計基準上はこの方法が妥当でして、国内ルールでも国際的なルールでもこの辺りは同様です。

この例では、監査人として、検証の材料として対象不動産の売却価値や、賃貸収入および空室率の状況などの情報を入手・分析を行っておりましたが、このように結論としての時価を示すことが困難なのであればこれらの一次情報を投資家側に開示することが本来的なのではないかと感じておりました。

しかしながら、投資先側への保護・配慮や実務上のコストを勘案した場合に、このような対応は容易でない(又はリーズナブルでない)という現実的な問題もあります。

 

結局のところ、この問題について突き詰めると、最終的にはファンドの運用者側が適切な能力を保持し、投資家側はこれを信頼することで最適化されるということになると思います。実際上も、基本的にはそのように回っているように思います。

 

クラウドファンディングは、購入型であれ投資・貸付型であれ、社会における資金循環をより直接的に円滑なものにしていく(その選択肢を増やしていく)点で重要な意義があり、今後も加速度的に市場拡大していくと思われます。

その中で、これらのプラットフォーム提供会社は、社会のなかでより重要な役割を果たし得るプレイヤーになっていくでしょう。同時に、プラットフォーム提供会社は金融仲介する存在として、案件を与信する能力・機能が求められ、これが競争力の源泉になっていくと考えます。

現状、購入型のプラットフォーム提供会社は、あくまでECの仕組みを提供する類の会社であるという側面・認識が強いように感じます。他方、海外では購入型のクラウドファンディング案件で、多額の資金調達を達成したものの計画していたプロダクト開発が実現せずに破たんしてしまった事案もでてきております。市場が成熟する中で、購入型のプラットフォーム提供会社は、案件の与信機能(要は目利きのチカラ)についても一定水準のものが求められるようになると考えます。

与信機能の重要性については、投資・貸付型のクラウドファンディングの場合には言わずもがなですが、これらを制御する法整備については議論が進行中の状況であり、適切な枠組みの実現について期待されるところです。

 

この世には様々な投資スキームが存在しており、またこれからも生まれていくのだと思いますが、運用者(営業者)が十分な能力と誠実さを有していること、投資家が意思決定に必要な情報が正しく開示されることの両面が機能することにより、適正な効果が実現する仕組みになります。

本件ではこの両方に問題があったということになります。

また、この後者の目的を担保することが公認会計士としての使命・役割であり専門性でありますが、いわゆるフィンテック時代における変化のなかで、我々の活動領域や在り方についても多様に広がっていくものと確信します。

よくわからないものを「見える化」して意思決定に役立てることが「会計」である為です。

 


当事務所では、購入型クラウドファンディングによる資金調達支援についても積極的にサポートしております。

プロジェクトの構築、プラットフォームの選定、募集ページの作成、支援募集期間中の帆走支援までの支援実績がございます。

 

京都市東山区の会計事務所「猪口公認会計士税理士事務所」を宜しくお願い致します。

※メール・skype等でコミニケーション可能な方であれば、全国何処のお客様でも対応いたしております(余談ですが、当事務所は京都より東京の顧問先を多く有している珍しい会計事務所でもあります)。

 

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