猪口公認会計士税理事務所

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会計

2016.09.21

「保証付き融資先」の事業再生


猪口です。

雑誌「金融財政事情(2016.9.5)」にて金融行政の一大テーマに浮上した「保証付き融資先」の事業再生≫という記事を目にしました。

金融庁のwebにもソースがありますが、個人的に思うところがあり、少し書いてみます。

 

記事の要旨としては「信用保証協会の(中略)保証等によって債権が100%保全されているケースが多いために、経営改善が必要な融資先であっても金融機関側に経営改善支援を行うインセンティブが働かず、条件変更状態のまま放置されるようなケースが目立つとのことでした。

実際のところ、金融機関の債務者に対する向き合い方において、保全の状況が考量されることは往々にしてある(というよりも、基本的には常に意識されている)と思われますが、「保全が効いているから、経営改善支援に対するインセンティブが無い」とまで言うのは実態的なのでしょうか。

○経営改善支援等の実施状況について、半分ぐらいが未実施となっているのは、採算が合わないからなのか、100%保証があるからできていないという理由なのか。

●経営改善支援の行き届かない先は、いわゆる小額の融資取引先、または未格付の融資先が多いと思われ、債務者区分を劣化させたくないというインセンティブもなく、手間暇かけられず、経営改善支援まで繋がっていないというのが一番大きな理由ではないかと思う。

○信用保証制度の必要性は認めるが、運営面では、保証実行後に金融機関が企業をほったらかしにしないことが必要である。実態は、ほったらかしにしているところが非常に多いと思うので、運営面の見直しをやらないといつまでも金融機関は変わらないと思う。また、信用保証協会保証付融資の金利は非常に高く、設定の仕方も非常に不透明である。保証料が高いというのは、結局、全部中小企業の負担となるので、その辺りも問題と感じている。
(金融仲介の改善に向けた検討会議(第5回)議事要旨 より抜粋)


確かに金融機関の与信機能におけるリスクコントロールのなかで、業況悪化した貸出先に対しては、債権回収が一義的な行動原理であり、保全が効いている貸出先に手間をかけるのは合理性に欠くと考えられるのかもしれません。
一方で、事業再生(特に私的整理)の局面においては、各ステークスホルダーにとって経済合理性を有することが、取組みにおける大前提です。
あるセグメントにおいて事業再生支援が進まないということが現実だとすれば、それは例えば塩漬け状態で窮境の企業・事業を延命させることが、金融機関にとっては不合理な形ではないと判断されているからかもしれません。

この点に対応して、以下のようなコメントが添えられています。

○金融機関が事業再生支援モードに入った時には、実態的には既に貸出は疑似エクイティ化している。サービサーがしっかりと事業再生支援をやるのは、ディスカウント譲渡ならば、そこにサービサーの利益幅があり、彼らのインセンティブが働いるからだと思う。
(金融仲介の改善に向けた検討会議(第5回)議事要旨 より抜粋)

これはあくまでサービサーの話であって、ビジネスモデルが異なるのですから、金融機関においては、当然に別の価値観やインセンティブが必要になります。

この点についての整理がなければ、金融機関として何を拠り所にして事業再生支援に取り組んでくのかという点について曖昧でしょう。

 

端的に言えば、事業再生の取り組みとは、現在何らかの理由により窮境である事業者の「未来」に対して光を当ててあげることに他なりません。

金融機関の立場からは、目先の利を捨てて(あるいは止むを得ず諦めて)も、事業者の将来における事業改善・発展にコミットすることで、金融機関としても将来的な実を得るということが期待できるという点において、合理性を見出すことができるのだと考えます。
その意味において、先述の「実態的には既に貸出は疑似エクイティ化している」というフレーズは示唆的に捉えることが出来ると思います。与信というよりも投資に近い考え方で意思決定することが求められているのかもしれない、と思うからです。つまり、金融機関にとっての「回収の最大化」ではなく対象事業者との取引・関係における「将来キャッシュフローの最大化」に寄り添わなければならないということです。
ただ、これらは本質的には隔絶されたものではなく、地続きのものである(べき)ともいえます。ステークスホルダーとして、企業や事業を如何に評価するのかという問題であるという点においては、まったく同質のものであるためです。

また、以下のような指摘もあります。

 

○日本は今、廃業率が非常に低い。成熟した先進国経済においては、経済成長率は殆ど開廃業率と比例しているので、これは成長戦略の観点からすると非常にネガティブである。開業率も廃業率も低いままでは、この国はどうやっても成長しないと思う。
日本の場合、とりわけ新陳代謝が遅れているのがサービス産業であり、もっと廃業等を増やさないと生産性は上がらない。問題は、本来競争から生ずるべき一定レベルの廃業がこの国で起きず、かつ、倒産を一生懸命止めてきたことにあると思う。その結果、金融機関、信用保証協会、経営者あるいはそこで働いている人全員にとって、多分この国は倒産コストの世界で一番高い国となった。

○やはり、退出によるステークホルダーのコストを下げないと、特にローカル経済の生産性は絶対に上がらない。また、生産性を向上させるのであれば、新陳代謝を促進していくしかないと思う。企業の生産性の向上と新陳代謝の促進が、実は地方の人達の生活と賃金を向上させることになると思う。こういう発想の転換ができるかが勝負だと思う。信用保証協会の代位弁済に税金を使うのなら、廃業で出してあげた方が良い。その方が将来的に有効な投資になると思う。
(金融仲介の改善に向けた検討会議(第5回)議事要旨 より抜粋)

 

再生局面においては、その事業を活かすのか殺すのかというジャッジの差配を債務者(金融機関)が担う側面があります。
理屈の上では、事業性の適正な評価に基づいた金融機関の判断が、企業・事業の新陳代謝の実現に寄与することになり、結果として地方経済の活性化に資することが期待されるということでしょう。
この視座に立つならば、例えば、信用保証協会保証付の債権が塩漬け状態におかれるような状況は、それ自体が社会的な損失を生み出しているともいえるのかもしれません。

実際のところは、ここでいう「適正な評価」とはなんぞやという点が非常に悩ましいわけですが、この点の透明性や蓋然性を担保するお手伝いをするため、企業の実態調査や合理性のある事業計画策定など様々な役務を提供することが、会計専門家としての私たちの役割でもあります。
というわけで、引き続き頑張って参ります。

 

 

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